Chikanism

現実と非現実のあいだ

どうでもいい話(2018年3月 ①)

ホワイトデーなので、何年か前のバレンタインデーの話。

 

 

雪が降っていた。わたしはバレンタイン用に作ったクッキーを大量に試食した後、こたつに座ってテレビを見ていた。ピロン、とLINEの通知が鳴る。

差出人は、長らく連絡をとっていない、前のバイト先の塾の教え子だった。「先生と同じ大学の経営学部に受かったで!」と書かれていた。

彼はわたしが大学1回生の頃に初めて受け持った子で、当時高校1年だった。わたしは数学を教えていたけれど、彼は文系だったので2年生までで辞めた。家庭教師のような感じで、どこまでどうやって進めるとか、指導方法の決まりとか、そういうものがあまりなかったし、彼はそこそこよく出来たので、わたしたちは授業の4割くらいは雑談をして過ごした。

学校のこととか友達のこととか、でも、彼が一番よく話すのは恋愛の話だった。割りと頻繁に変わる彼女の話を、かなり下世話なところまで聞かせてくれた。その他にも、彼女と遊びに行った話とか、あげたプレゼントの話とか、「欲しいって言ってたけど絶対イヤって言った」と言いながら初めてのバイト代でサプライズでアクセサリーを買った話とか。「俺からは絶対振らないから、振られてばっかりだ」、などとも言っていた。

最後の授業の日、わたしは「あんたが大学生になったらゴハンでも行こうね、奢ってあげるから」と言ったけれど、彼はその後にとても生意気なことを言ったので、わたしは「ばーか」と送り出した。

 

それから約1年。彼がもう大学生かあ、というのと、同じ大学だということに、なんとも言えない気持ちになった。「おめでとう、大学で会うかもね」と返信すると、「先生みたいなかわいい人紹介してね」と返ってきて、変わってないなあとも思った。

 

その雪のバレンタインデーから3ヶ月くらい経った日の朝、大学へ向かう電車で肩を叩かれたので振り向くと、その子が立っていた。久しぶり、と言った彼が高校生の頃と変わっていたかどうかは全然覚えていないけれど、彼のポケットにタバコの箱が入っていたので、わたしは「あんたタバコ吸うの」と言ったら、彼は「あ、うん、たまに」と言った。そのまま大学に着くまで、彼のキャンパスライフについて聞いた。授業の話や今度友達と遊びに行く話、かわいい女の子がいない話などをして、別れた。

 

 

彼とはそれ以来会っていない。今なにをしているかも、卒業後どうするのかも知らない。でもわたしは長く大学生をしすぎたので、どうやら卒業年度が同じらしい。わたしの生徒だったのに、社会人としては同期になる。もともとあいつはわたしに敬語を使わないので、生徒でも後輩でも同期でも変わらないのだけれど。卒業してから、もしまたどこかで偶然出会えたら、おもしろいよね。