Chikanism

現実と非現実のあいだ

小さくなった劣等感

留学してたころ、クラスのみんなはわたしより数倍英語が話せた。わたしは中高大とずっと英語はできるほうだったけど、そんな日本のなかの「できる」なんて通用しないレベルだった。英語って英語を話さざるを得ない環境にいくと本当にぐんと上達するもんだ。

とくにビジネスカレッジで入学するのに一定の英語力が必要なのもあって、みんなすでに語学学校を終えてきたひとばっかりだった。しかも海外に留学してビジネスカレッジに来るようなひとはある程度行動力とガッツがある人ばかりなので、そのなかで劣等感に埋もれた。

先生の話を聞き取るので精一杯。単語もスラスラと出てこなくて話せない。聞き取れても意味がわからない。当てられたら答えられなくて、辛かった。プレゼンやグループワークもしょっちゅうあったけど、最初のプレゼンは前日に泣きながら先生に相談したし、グループワークでは足を引っ張りまくりみんなが助けてくれた。

 

常に気を張って、緊張してた。話すだけで、先生に「誰か死んだのか?」とジョークを言われるほどに。

 

インターンを探すときも、面接に2回落ちた。もう冬になろうとしてる時期で、コートがないと外に出るのが辛かった。カフェオレを買うかどうか迷ってやめて、次のインターン先を紹介をしてもらうのを自習室で待っていた。

いつもわたしを気にかけてくれていた先生はジョンという名前で、暗い顔でパソコンの画面を見つめるわたしの隣に座って「調子はどう?」と言った。わたしは「ぼちぼちかなあ」と間をおいてから、「次の面接がある」と答えた。

きっと上手くいってないことは彼も知ってたんだろう。わたしが面接でうまく話せないことも。(日本語でも面接では話せないので英語の問題じゃないかもしれない)

 

「大丈夫だよ、もっと自信持って。君はずいぶん変わったし、本当はよく喋るのも知ってるよ。周りと比べるんじゃなくて、過去の自分と比べなさい。みんなバックグラウンドが違うんだから他人と比べても仕方ないよ」とジョンは言った。

そのとおりだなあ、と思って、ありがとう、と言うとジョンはウインクをして、わたしの肩を叩いて去っていった。

 

カナダは転職のサイクルが早くて、わたしたちを見てくれていた先生たちはわたしたちがインターンで学校にいかないうちに何人か辞めていった。たまに学生同士で集まって、「あの先生辞めたらしいよ」などと話した。

 

最後の授業で、クラスメイトのほとんどがわたしについて「最初のころと変わった」と評価してくれた。あんなに怖い顔をして隅のほうで劣等感に埋もれていたわたし。留学が終わるころもわたしはみんなよりは話せないままだったけど、それでも劣等感は薄くなって、ちゃんと頑張れてよかったなあと思っていた。なんとか乗り越えてきたことが、周りにも認めてもらえたから。

 

あのときみたいに辛いこともきっとこの先あると思うけど、まあなんとかなるかな、そう思えるようになった気がする。努力すれば結果が出る(こともある)、そう信じられるようになったから。