Chikanism

現実と非現実のあいだ

同期と友達のあいだ

「もうご飯食べた?」「...Never mind.」

同期の男の子から立て続けにLINEが来た。土曜日の夜。

ちょうどマツエクが終わったばっかりだったので、「食べてないけど、なに?」と返すと、今から食べようと言う。ボルダリング帰りでカフェに居るというので、てっきり他の同期と一緒にいるのかと思いながらベローチェに向かうと、彼は一人で外の席に座っていた。

おまたせ、と声をかけると彼はケータイから顔をあげて、「焼き鳥食べよう」と言った。

近所(のはず)なのに初めて来た商店街を歩いて、焼き鳥屋さんを探す。3件見つけたけど結局一番最初の店に入って、わたしたちは焼き鳥の盛り合わせとお酒を頼んだ。

 

彼は7月からの新入社員だ。海外の大学を卒業して日本に戻ってきた。もうすぐ彼女と結婚するらしい、カナダ人の彼女。国境を超えた遠距離になると、別れるか結婚するかの選択肢が現実味を帯びて迫ってくるんだろうか。

彼はよくカナダにいた頃の話をする。わたしがバンクーバーに住んでたということもあるだろうけど、酔ってるのか、単に覚えてないだけなのか、何度も同じ話をするし写真を見せてくる。何も言わずに聞いておくけど。彼女の写真だけは「かわいいでしょ」と言うので、「同じ写真前も見せてもらったよ」と返すと「何度でも見てよ」と彼は言う。

彼女の惚気話も聞き飽きたところでわたしたちは店を出て、なぜかかき氷やさんを探したけど見つからなかったので会社の近くのコンビニでアイスを買った。近くのタワーマンションの敷地内とも言えそうな場所のベンチに座ってアイスを食べながら、会社の話とか将来の話とか、昔の話をした。

なんで留学したの?とかそういう話。意外とそういう話をする機会ってないので、なんとなく新鮮だった。当たり前だけどわたしは彼と知り合ってまだ2ヶ月だし、知らないことばかりだ。

彼はかなり変わった人間で、行動力がすごい。社員全員とランチするのだと言って片っ端から声をかけているらしい。先日社長と話したときも、「彼はかなりおもしろいね」と笑っていた。

ほんの数時間話したくらいで彼のことを知れたとも思えないけど、ちゃんといろいろ経験してて、いろいろ考えてるんだろうなあ、おもしろいやつだなあ、と思った。彼はセブンイレブンで買った黒蜜きなこアイスに入っていた白玉をひとつわたしにくれた。いいやつだ。

 

また歩いた。歩きながら彼が「いま何歳だっけ?」と聞くので(うちの会社は留学してた子が多いので同期の年齢がバラバラ)、わたしが今年26だと答えたらアラサーだね、と言った。「現役(22歳)の同期が4年目になるころがわたしの今の年齢だから、焦るよね。友達とかももう社会人4年目だしさあ」と溢れた言葉が自社のビルと隣のビルとの間の暗い通路に消える。土曜の夜にはオフィス街には誰もいない。

「でもさ、そのぶん経験があるんだし。気にすることないよ。もっと自身持ってよ」と彼が言った。そうかなあ、そうなのかなあ。そう言う代わりに「そうだね、何もしてなかったわけじゃないしね」と答えておいた。そんなふうに言ってくれたこと、本人はきっともう覚えてないだろうけれど。

だいたいにして、人生は他人の何気ない一言に救われるもんだ。(同様に何気ない一言に傷つくこともある)

 

普段は歩いて帰る道のりだけど、なぜか駅まで送ってくれたので電車に乗ることにして改札前で別れた。その後「帰れた?」とLINEが来たけど、電車を乗り間違えて家とは反対方向の駅にいることは黙っておいた。

 

 

ちなみに彼は酔うと「どうでもいいこと言ってもいい?…やっぱいいや」という技を繰り返し、そのたびに気になるので聞いてしまうのだけど、今のところ100%下ネタである。そういうとこ嫌いじゃねえな、と思ってしまうけど。