Chikanism

現実と非現実のあいだ

ほんとは君に貸すためだよ

「絆創膏ありがとう。いつも持ち歩いてるの?すごいね」

わたしがあげた絆創膏を貼った足を少しかばって歩きながら、彼は言った。

「うーん、まぁ、靴擦れとかしたときのためにね」

彼は納得したように前を向いた。少しその横顔を見上げてみた。わたしの方がちょっと先輩なのに敬意のかけらもないな、と思ってみたりした。ほんとはそんなの気にしてないけど。

 

 

先日、砂浜でバーベキューをした。そこには日本人から外国人まで、高校生からおじいちゃんおばあちゃんまで様々な人がたくさんいて、これが夏か、と思った。

もしかしたら、世間一般の大学生にとっては夏といえば海で海水浴やバーベキューなのかもしれない(わたしに限ってはそうではなかった。夏は学園祭の準備をしたり、いつもと同じように研究するものだった)。

 

水着なんて持って行かなかったけど(そもそも縁遠いので持ってない)、脚くらいは水に入れるようにショートパンツを穿いて行った。サンダルも持ってなかったので、砂浜では裸足で歩くしかない。

水は思ったよりも綺麗で、水着くらい持ってこればよかったと少し思った(持ってないけど)。

食べるのにも飽きたころ、みんなで浅瀬で遊び始めた。バーベキュー後に別の友人と会う予定があったのでシャツの着替えだけは持っていたが、下着もパンツもないのにまんまと水の中に投げられて、わたしは全身ずぶ濡れになってしまった。もちろん、仕返しにわたしを投げた子たちのことは濡らした。

そうこうしているうちにどうやら主犯格の男の子は砂で足の裏を切ったらしく、血まみれになっていた。誰か絆創膏くらい持っているだろうとわざわざ差し出したりしなかったけれど、しばらくして「誰か絆創膏持ってない?」と言い出したのに実際は誰も絆創膏なぞ持っていなかった。

よく靴擦れをするのでポーチに絆創膏を入れていた。「あるよ」と手渡すと、みんなが「女子力たけー!」と言った。おそらく濡れた足の裏には絆創膏はつかないだろうなと思ったが、後にちゃんと役だったようであった。

 

彼とはそんなに仲良くなかったのだけれど、そこから少し話すようになった。帰りの電車で、お互い湿った服で席に腰掛けて(ごめんなさい)、昔のこととか大学のこととか将来のこととかについて聞いた。

1枚の絆創膏が、わたしにおもしろい出会いをくれたのだった。次に会うのがいつになるか、もうわからないけれど。

 

 

それとは別に、帰り道に女の子が「頭が痛いんだけど誰かイブとか持ってない?」と言ったが同様に誰も持っておらず、わたしはイブをポーチから取り出した。

さらに別の子が「昼寝したら酒灼けみたいな声になっちゃって喉が痛い。のど飴とかないかな」というので、またわたしはポーチから龍角散を取り出した。

 

自分のためにいろいろ持ち歩いてるけど、たまにはこうやって誰かの役に立ったりする。普段から荷物が多い癖が珍しくいい方に転んだのだ。

 

 

何が言いたいかというと、バーベキューには絆創膏は持っていったほうがいいし、常備薬として痛み止めくらいは持っていた方がいいし、のど飴も1つくらいは持っていた方がいい。

君に貸すためなんて嘘で、自分で使うためだけどね。

それでも絆創膏を常備する数を増やしたのは言う間でもない。