Chikanism

現実と非現実のあいだ

夜と朝の境目

深夜3時。

いつもなら寝ている時間だけど今日は起きていた。隣には終電を逃してのこのこと我が家にやってきた男。

 

「タバコ吸ってもいい?」

「絶対ダメ」

 

彼は渋々うなずき、冷蔵庫を見に行った。私の家なのに、じぶんちと勘違いしてるんじゃないだろうか。

 

「お酒ないのかぁ」と呟いて、また狭いワンルームに戻ってきた。さっきまで散々飲んでたくせに、まだ飲みたいのか、少し腹立たしい気持ちを抑えて彼の方を見た。呑気にあくびをしている。

 

シュークリーム買いに行こう、私が言って立ち上がると、彼はえー寒いのに、と文句を言いながらついてきた。

夜中の3時だと言うのに、平日なのに、大通りは人がそこそこいる。さすがに深夜なのでタクシーがたくさん泊まっている。通りすがったラーメン屋さんにも、まだ何人も人が座っていた。

 

「こんな時間なのに人多いね」と私が呟くと、「東京だからな」と彼は理由になってないような理由を口にした。

まだ22時くらいなんじゃないかと思えるような空気感を出している道を歩いて入ったセブンイレブンで、私はエクレアをカゴに入れた。彼はさすがにお酒は買わず、同じエクレアをカゴに入れた。シュークリームが欲しかったんじゃないの?とニヤニヤ笑いながら。

私財布持ってないよ、と当然のように言うと、彼は何も言わずに自分の財布を出した。これはいつものことだ。罪悪感はもう消えてしまった。

4円のお釣りをもらって、蛍光灯が明るいコンビニを出た。エクレアの入ったコンビニの袋は彼がぶら下げていて、私はちゃっかり彼の手を握った。彼も何も言わずに私の手をとったまま歩き始める。

 

 

「ねえ、夜と朝の境目ってどこだと思う?」なんとなく私が尋ねると、彼は考えるそぶりもせずに「4時くらいじゃないの?」と言った。

別に答えがあったわけじゃないので、ふうん、と言って、そのまま歩いた。

近くに公園があったので、ベンチに座ってエクレアを食べた。

もうすぐ4時になろうとしている。

 

まだあたりは暗い。いつから朝なんだろう、確かに4時は朝だろうなあ。

 

「見に行く?」

唐突に彼が言うから、一瞬何のことだかわからなかったけど、すぐに夜と朝の境界のことかと気づいた。

「どこ行くの?」

「わかんないけど」

彼は立ち上がって、私の手を引っ張って、歩いた。

 

ここは東京の街中だ。朝日が見える山とか、丘とかはない。小さな川沿いを歩いた。ゴールもなく、歩いてるうちに、気づけば空が白み始める。

 

「朝だ」

私が言うと、そろそろ始発があるかもなあ、と彼が言った。もうそんな時間?と聞き返したけど、何も言わない。私たちは駅のすぐそばまで来ていた。

 

 

ありがとね、とだけ言うと、彼はくるりと背を向けて駅に向かって歩き出す。帰らないで、なんて言えるわけなかった。

 

彼が角を曲がるのを待って、私も家に向かって歩き始めた。こんなところに置き去りにするなんて。

 

携帯が鳴って、気をつけてね、と連絡が来ていた。

朝焼けが眩しい。明日は雨が降りそうだ。