Chikanism

現実と非現実のあいだ

ひまわり記念日

 

夏の昼下がり。部屋着のままふらりと外に出て、お花屋さんへ向かった。

近所の花屋は小さな佇まいで、店内に少し足を踏み入れても誰も出てこない。不用心だな、と少し思いながら店内を見渡す。薄暗い蛍光灯のガラスのなかに、小ぶりのひまわりがたくさん並んでいた。
わたしが一番好きな花。太陽のような、元気な黄色。

「すみません」
わたしが言うと、花束の列に隠れて見えていなかった店主さんが出てきてくれた。
「ひまわりが、欲しいんですけど」
店主さんはひまわりの束を取り出して、「1本130円。何本いる?」と聞く。
「5本、くらいかなあ」
具体的に決めていなかったので、なんとなく数を伝えた。
「誰かにあげるの?」店主さんが言う。
残念ながらお花をあげるような相手はそういないので、「いや、家に飾ろうと思って。何かと合わせたほうが綺麗かなあ」と小さく言うと、彼は「ひまわりはね、ひまわりだけで充分きれいだよ」と言ってくれた。
「じゃあ、ひまわりだけで」と言って、財布から650円を取り出す。
店主さんはにっこり笑って、「1本おまけしとくね」と、小さなひまわりたちを手早く包んでくれた。

思いがけず6本になったひまわりを抱えて、わたしは来たときより幾分か軽やかな足取りで家に向かう。途中のコンビニでプリンも買った。
ひまわりを机に飾るために、机の上を綺麗にしたのだ。ついでに部屋も片付けたし、トイレやお風呂なんかも掃除した。準備の整った(それでもまだきれいとは言い難い)部屋に、6輪のひまわりを飾った。
突如明るくなる部屋。夏がきたんだなと、クーラーの効いた涼しい部屋でぼんやりとひまわりを見つめて笑う。

普段は忙しくて意識しないけれど、何もない休日を過ごすにはひとりの部屋は寂しくて、わたしはひまわりが欲しかったのかもしれない。元気をくれる、大好きな花。
友人が言う。「ちかちゃんほどひまわりが似合う人に会ったことないくらい、ひまわりが似合うよね」。大好きなひまわりが似合う女になれたら嬉しい。ひまわりがわたしに元気をくれるように、わたしも誰かに元気をあげられたら。
太陽のような花と、一緒に笑って負けないような人になりたいな。今年の夏もハッピーに過ごせますように。わたしは楽しい未来を待ち遠しいと思える。

 

 

お題「わたしの記念日」